Skip to Main Content

企業文化に裏打ちされたリーダーシップを重視せよ

人材と戦略、企業文化を一体化させて業績を高める
2015年1月

多くのリーダーたちは、企業文化の機能不全が業績悪化を招くこと、そして、カルチャー・フィット(企業文化との融合)不足が、新しく雇ったエグゼクティブが1年目に挫折する、最も一般的な理由だということを認識してきています。そして多くの人が、その成功の裏には固有の企業文化という隠し味があるとされる会社の名前を挙げることができます。

もっとも、企業文化の重要性がますます理解されてきているにもかかわらず、何が企業文化を促進するのか、現在の企業文化が企業戦略の優先事項を担保しているのか、それとも逆に阻害しているのかを明確に語れるエグゼクティブはあまりいません。

多くのリーダーにとって、企業文化は「ソフト」で、曖昧なものです。ほとんどの会社は、企業文化を言い表す共通の用語を持っていませんし、それを理解するための糸口もつかんでいません。だから企業文化を進化させるための要素が何かもわかっていないのです。

結果として、リーダーはどこから手をつけてよいかわからないので、多くの場合、企業文化を、達成したい結果で定義します。たとえば、「顧客志向の文化」「業績志向の文化」などです。

しかし、企業文化は、「結果」ではありません。あくまでも、それらを産み出すためのマインドセットであり、仮説であり、振る舞い方のベースなのです。それが証拠に、異なった文化であっても似たような「結果」が生まれることがあります。たとえば、多国籍に展開する上場企業の文化は適応能力が高く、結果優先主義です。これに比べて国有企業は秩序と安定を重んじます。両者はそれほど違った文化であるにもかかわらず、同様の財務指標を持ち、同じく社員の雇用契約、顧客サービスという尺度を頼りに経営をしています。

さらにわかりにくいことに、企業文化は、ウェブサイトに掲載されているような公式の企業価値や社員のやる気などの類のようなものだと思われがちですが、決してそうではありません。企業文化を明確にし、その価値を伝えることは重要ですが、本質は、社員が実際にどう振る舞うかということより、企業が切望するもっと高尚な原理原則を体現することなのです。社員のやる気を高めることは確かに業績を力強く押し上げる原動力にはなりますが、このやる気というものはなかなかはかないもので、たとえば、残業代やキャリア開発プログラムに対する投資の削減など経営上の日常的なブレで簡単に上下してしまうものです。

結局、ほとんどのよく知られた企業文化のための分析手法では、企業文化や個人のスタイルをアセスメントするための統合フレームワークは使用されません。企業文化に関する洞察を、リーダーシップや能力の判断に応用するのは難しいからです。

企業文化を定義する:その必要性と課題

企業のビジョン、ミッション、戦略などは、リーダーが組織活動を先導する際のゴールとして明確に提示できますが、企業文化そのものは、組織のあらゆる場所で、いかに社員が考え、決定し、実際に行動するかを示唆すべく、組織に浸透し、バックグラウンドで、静かに働いているも のなのです。

企業文化とは、組織の中で物事がどのように動いていくべきかを明示する不文律を表すものです。それは、共有価値のマニフェストであり、信念であり、そして、どのように仕事が行われるのか、社員はお互いにどのように接するのか、そしてどのように市場での位置を確定させていくのかをわかるようにする隠れた仮説なのです。

こうした企業文化のつかみ所のない性質は、ビジネスにとってやっかいな存在であるとともに、適切な事業機会を提供してくれるものでもあります。文化を定義することは難しいことです。なぜなら、文化を推進する内なる要因は、前述のように普通は隠れていて、意識下で時間の経過とともに進化した組織共通の仮説で成り立っているからです。

そうした文化をもし目で見ることができないのであれば、描いてみるか計測するしかありません。そうでなければ、自社の文化が果たして業績を助けているのか、あるいは害しているのかすら知ることができません。ましてや、見えないものをマネージすることなどできないからです。

それでも適切な文化は、社員の想像力とやる気を鼓舞し、彼らの潜在力に火をつけて、彼らが知らないうちに彼らの協力意識を高め、よりクリエイティブで柔軟であることを促したり、あるいは逆にもっと用心深く計画的にさせるものなのです。

企業文化は、そのパターンによって、イノベーション、成長、市場におけるリーダーシップ、倫理的行動に加え顧客満足度を促進することができます。実際、調査結果を紐解けば、企業文化を体現した社員は、企業業績に多大な貢献ができることがわかります。実に、最大で25%もの業績の違いを生むといわれます。

ジム・コリンズは彼の著書『Good to Great』(ビジュナリ―・カンパニー2―飛躍の法則日経BP社刊)の中で、そうした会社は、競争相手の6倍も成功していると述べています。

また別のリサーチでは、そうした社員のいる企業は、企業文化と社員との結びつきが弱い、あるいはそうした結び付きのない競争相手より、2倍の投資対効果、売上の伸びや総資産利益率の明らかな違いを実現しているのです。

反して、不健全で不完全な企業文化は、企業戦略におけるイニシャチブを邪魔し、業績を減じさせ、顧客のロイヤリティを低下させ、従業員のやる気に悪影響を及ぼします。

ある調査によれば、外部からエグゼクティブを招聘して失敗したケースの68%は、企業文化へのフィットがなかったことが原因でした。

何と言っても、企業文化というものは、一度、確立されてしまえば、力を発揮し続け、変えることが困難なものなのです。

仮に皆が、企業が成功するにはリスクを避けて、はしごの下に隠れているのがいいと思い込んでいるとしたら、たとえ新しい経営戦略が「リスクを覚悟し、イノベーションを推進する」となっても、そうした企業文化が変わらない限り、その戦略は徹底した抵抗に遭うことでしょう。

そのため、企業文化がいかに業績に結び付いているかをアセスメントするとき、表面的な行動や結果だけでなく、企業文化の根本的な推進要因を診断することがとても大切なのです。それができれば、正しい方法で企業文化がアセスメントされ、可視化されて、結果に導く行動を産み出すことができるのです。

企業文化を考えるフレームワーク

企業文化は、組織が外的環境にどのように反応するかで決定され、定義されます。たとえば持続的に進化する顧客の要求、競争圧力、すべてのビジネスに影響を与える技術進歩やマクロ経済の進展など。そして、企業のメンバーたる一人ひとりが、業務遂行のために、いかに互いに影響しあい、連携し合うのか、といったことです。

本当に組織の文化について知りたいのであれば、考慮すべき一番大切な要素は、組織がいかに変革に反応するのか、なのです。特に大切な要素は環境要因(変化に対する志向)であり、また個々人として、あるいはグループとしての社員をどう考えるか(人に対する志向)、です。

私たちは、何十年もの間、企業文化、および個人的成功あるいは集団としての成功の推進要因について調査研究してきた結果、業界の違いや地理的条件に関わらず適用できる、これらの企業文化の要素のなかで、最も重要な要素は何かということを特定しました。

実際、組織の志向は、高度に個人的なものから、高度に集団的なものまで、広範囲にまたがります。文化は、より自主を重んじるようにも、あるいは逆に組織優先にもなり得るのです。

自主性を重視しようとする個人主義的文化は、自主性と個人行動に大きな価値を置きます。逆により組織優先の文化は、人間関係の重要性や組織としての努力を重んじます。そのため、組織のメンバーはコラボレーションを重んじ、グループの視点で成功を見極めようとします。

同様に、組織は変化に対してオープンなものにもなり得ます。社員も文化も、物事の整合性や予測可能性、外部環境にさらされることをコントロールすることに重きをおく環境にあっては安定しているほうが心地よいと感じるでしょうし、順応することがよいことだと強調される環境にあっては、柔軟であろうとします。変化を好む文化は、イノベーションや開放性、長期的な展望に価値を置きます。方や安定を好む文化は規則に従い、管理機構を作り上げ、ヒエラルキーを強固なものにしようとします。

ベストで広く認められている120以上の社会文化的モデルから得られた、こうした基礎的な洞 察と観察を踏まえて、私たちは8つの個別の社会文化スタイル、いわば多くの企業文化やリー ダーに適合する「ベーシックな仮説」を導きました。

同時に、これらのスタイルは、文化における高度に複雑で多様な行動パターンを表し、分析するための道具ともなり得るのです。そして、個々のエグゼクティブが結びつき、形作る文化を理解する助けともなります。

各スタイルは、個人的にも、組織的にも、世界を観察し、問題を解き、成功するための、独特で確かな方法を提示してくれます。

一つのスタイルでは、企業文化やパーソナルスタイルについて十分に描写することはできません。個々人のスタイルや組織の文化は、企業の人的志向性および変革志向性を反映した複数のスタイルによってウェイト付がなされる傾向があります。

たとえば、学ぶことや楽しむことを掲げる文化は、リスクテイクを楽しみ、探求心を重んじるという特徴を有しています。そうした環境で成功した個人は自主性に価値を置き、常に新しい何かを探しています。

対照的に、安全と秩序に重きを置く文化は危機管理、効率、安定が最優先課題で、そうした環境で成長した個人は、注意深く、自分たちの行動がいかに会社や同僚に影響を与えるかを心配するようになります。

組織の優勢な文化的スタイルは、目には見えませんが、個々人の行動や意思決定に働きかけ、そこで働く気分というものを産み出しています。

では、実際の組織とはどのようなものでしょうか?

小売業の3つの例を見てみましょう。それぞれ固有の文化を持っていますが、皆、業績はよく、成長している企業です。そして顧客サービスにもそれぞれ定評があります。

伝統があり、受け継がれてきた最高のブランドを有する、グローバルに展開するある高級小売店では、従業員は自らをブランドの守護者と自負し、由緒ある慣習を貫く姿勢で顧客サービスとブランドイメージを守っています。この会社の文化は、少数の人間が権威を持って、グローバルブランドに影響を与える意思決定を行う、そんな用心深い文化です。

対照的に、楽しむことや活力を志向するスタイルは、もっぱら実店舗を持たずにネット専業の小売店の文化によく観られる特色です。そうした企業には、楽しみながら、ファッショナブルで手ごろな値段のアクセサリーを買う若い常連客がついています。従業員たちは社交的で自分たちの仕事を愛しています。彼らは顧客に友達として接しています。

三番目は、百貨店です。学習する企業文化が定着しています。顧客の期待に応えるべく、エンパワーメントを重視し、柔軟であろうとしています。こうした企業で従業員が従うべきルールはたった一つです。それは、「顧客を喜ばすこと」。そして、企業の前線を任された代表者として、なんとしても、最も素晴らしい顧客体験を持続することなのです。

いかにして、経営陣は、企業文化を形成し、洞察を行動に移していくのか

唯一無二の『正しい』文化などは存在しません。一つのビジネスにおいて、正しい文化というのは、その企業の使命や戦略と同じように、依って立つ外部環境いかんによって変わってくるものです。

理想的にいえば、文化というものは、企業が置かれた環境でチャンスが到来した時、または逆に脅威にさらされた時に企業をそうした環境変化に即応させるものであり、また企業自体にとって大切な内的要因、たとえば従業員をやる気にさせ、正しい行動へと駆り立て、戦略と組織構造とを正しく結びつける、などをサポートするものなのです。

そのため、仮に企業が市場の環境変化に効果的に反応するのを妨げる場合、または企業内部のダイナミズムに害を及ぼすようになってしまった時は、企業文化自体が変容し、進化していく必要があるのです。

企業文化は、社員すべてのカルチャースタイルの総計ではありません。ほとんどの企業において、CEOとその他の経営陣が強調し、模範を示すことで、企業文化に不相応の大きな影響を与えているのです。この理由で、リーダーが重大な決定をする際、企業文化に関する深い洞察を踏まえることは、うまく働いている文化の要素を強化し、逆にうまく働いていない要素を進化させるための、最も有効な手段の一つなのです。

フレームワークを適用して企業文化と個々の従業員のパーソナルスタイルの両方を表現できる同じ言語を使うことで、直接、個々人と企業文化をつなぐことができれば、より簡単にそれが可能になります。

CEOサクセッションと能力開発

ほとんどの企業において、CEOほど企業文化に大きな影響を与える存在はありません。CEOのスタイル、スピーチやミーテイングで力説する際の振る舞いやコミュニケーションの仕方、また評価し、昇進させるエグゼクティブなどは、企業全体に示す、企業文化に関するシグナルでもあるのです。

新しいCEOは、現在の企業文化を守ることもできますし、文化を変革するよう影響を与える行動を取ることもできます。

たとえば、あるプログラムへの資金提供をやめたり、これまでのスタイルと違う個人のスタイルを持ったエグゼクティブを公然と賞賛したり、旧体制の輝けるスターを降格して影響力のない立場に追いやることもできるわけです。

企業が、未来の幹部候補生を見出し、昇進させ、育成するあり方は、経営陣が築こうとしている企業文化についても多くを物語ることになります。そのため、ボードやCEOは、有望な人材、特に将来のCEO候補をいかに育成し、昇進させるかを注意深く検討する必要があります。

そして次代のエグゼクティブに必要な才能が、自社が将来に形成したい文化に沿っていることを確実にするために、人材開発、育成プログラム、人事評価は、目標とする企業文化の形成に必要とされるマインドセット、立ち居振る舞い、能力を反映したものでなければなりません。

たとえば、仮に組織を結果重視の文化へとより加速していく必要があるとすれば、トレーニングや育成プログラム、そして会議の在り方や、エグゼクティブが効果的に全社員とコミュニケーションする方法などはすべて、これからのリーダーたちに、そうした将来の企業文化において正しい振る舞いをする方法を伝授するために進化すべきなのです。

リーダーの選定、採用、オンボーディング

リーダーというのは、企業文化を作り上げるとともに、文化によって形作られるものですから、CEOの候補者が、いかに現在の、そして目標とする文化にフィットするかを把握することはとても重要なことです。たとえば、非常にアグレッシブで、結果重視の文化は、リーダーの行動にも影響し、そうした文化を好まない人たちを追い出す結果になります。

企業文化をしっかりと把握していれば、より賢い採用が可能になり、現状の企業文化が強みである場合は、新たに参加するリーダーへの組織の拒否反応を減じることができます。また、企業文化をさらに進化させる必要がある場合は、チェンジエージェントとして仕える新しいリーダーを選択することを示唆してくれるはずです。

戦略および企業文化の変革が課題として挙げられているとき、企業は変革の触媒となれるリーダーを雇い、あるいは昇進させます。彼らは、目標とする文化に見合ったスタイルを持つ必要があります。さらにまた、組織のメンバーの模範となって影響を与え、進むべき方向を指し示すスキルを持ち合わせていなければなりません。企業文化の変革にどこまで影響を与え得るかは、既存の組織構造や企業文化がどれだけ確立されているかにもよります。

健全で、変革の方向性に即した企業文化にあっては、外部から参画したリーダーのスタイルがどれだけその企業文化に沿っているかを理解することが、オンボーディングの計画を作り上げる上で必要なことです。オンボーディングの計画は、そのリーダーの強みが既存のチームや組織全体の企業文化をどう補完するか、あるいは逆に特定の行動が周りから否定的にとらえられかねないか、といったことを明らかにすることによって、周到なものとなります。

リスクテイクし、柔軟に物事に対処するスタイルのエグゼクティブが、秩序正しく計画的なチームに入っていく場合、当人は新しいアイデアを出すことで評価されると思っているのに、そうしたアイデアには実現性が伴わないとみられてしまうことにフラストレーションを感じます。そうこうしているうちに、「なんと用心深く、行動の遅いチームなのだろう」と思い、不満が高じてしまいます。

新しく入るリーダーのオンボードのための計画は、職務、その企業文化の特徴、リーダー個人のスタイルがその組織の文化とどのくらい違うかの程度によって変わります。オンボーディングのプロセスにおいて、自社の企業文化についての理解を手伝うということだけで、新しく入社したリーダーが成功する大きな助けとなるのです。弊社が一緒に仕事をしたことがある、あるトップ企業のエグゼクティブは、「企業で、個人が成功する一番の決定要因は、その企業の文化と調和すること」だと言っていました。ただ、その会社は、この新しいエグゼクティブと数多くの企業戦略のミーテイングをしたのにも関わらず、一度も文化について話し合ったことはないのです。

効果的なトップリーダシップチームを育てる

多様なスキルを持ち、団結して、効率よく働く文化を持つチームをいかにして作り上げようかと奮闘している会社も少なくありません。

チームというのは、メンバーが相互に信頼し合い、共同体として一体感を持つとき、最も効率が良いものです。チームの機能によって、一連の多様な行動パターンとスタイルを持つことは、程度の差こそあれ、重要です。たとえば、仕事が単純明快で、皆が同じことをするのであれば、絶対的なスタイルの統一があることは利点となるでしょう。逆に、大変複雑に、タスクがさまざまに変わる、そんなチャレンジングな環境では、多様性のあるスタイルがふさわしいはずです。ただ、スタイルの多様性は、高度な信頼関係、理解、コミュニケーションがあって初めて成り立つものです。

企業は、個々人が自己認識を形成することを助け、同僚をやる気にさせる方法を教え、エグゼクティブに望ましい文化的特徴を身につけさせることで、マネジメントチームがより有効に機能することができます。

結論

企業文化には、最も洞察力に富んだ経営戦略を作り、最も経験のあるエグゼクティブにも劣らない助けとなって、業績を後押しする強力な効果があります。そうした文化は、イノベーションを起こし、成長を促し、市場のリーダーシップや倫理的行動、そして顧客満足を促進することができます。

方や、組織にそぐわない、むしろ有害な企業文化は、業績を蝕み、顧客満足やロイヤリティを減じ、従業員のやる気も奪ってしまいます。

企業業績にこれだけ影響があるにも関わらず、企業文化は大変に管理が難しいものです。なぜならば、通常、その推進要因が隠れていて見えないからです。

真に、その企業文化を理解し、その文化の各要素がビジネスの戦略的優先事項をサポートするものか、あるいはそうでないかを判断することができれば、組織のパワーを最大限に解き放つことができます。なぜならば、シニアリーダーシップ・チームは、とかく企業文化の形成に絶大な影響力を持ちがちだからです。そのため、現在の企業文化を補強する、あるいはさらなる進化を助長するよう、個々のエグゼクティブとチームを選び、育てることは、企業文化がしっかりとビジネスを下支えるようにする最も重要な方法の一つなのです。

共通言語を用いて組織の文化と個々人のスタイルの両方を言い表す、個々人と企業文化を直接結びつけるフレームワークを適用することで、企業文化に裏打ちされたリーダーシップを発揮することが、より容易になるはずです。