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さらなる深層へ

そこに潜む未来のリーダーシップとは
2023年2月

著者紹介

  • Christie Coplen

    Christina Coplen

    シカゴ

  • Patrick Hynes

    ロンドン

  • Jeremiah Lee

    Jeremiah B. Lee

    ボストン

  • Jerry Noonan

    ボストン

  • Malini Vaidya

    シンガポール

訳者紹介

 

概要

  • 今日のような複雑かつペースの速い環境下においては、有能なエグゼクティブは自らコントロール・指示したいという衝動を捨て、成果実現に向けた環境整備に注力している。
  • より変化が激しく予測不可能な環境下における成果実現の予測判断材料として、「深層に潜む」リーダーシップの特徴である行動パターンや特性・スタイルの嗜好といった個人の能力や性質の重要性が増している。
  • 適応力・回復力が高いチームは、大方針における合意形成がなされており、問題の発生や状況の変化にも密接に連携して対処・前進することができる。ここで必要とされるのが、強固な関係構築、信頼であり、健全な組織力学である。
  • リーダーは、パーパス・価値観・組織文化を通じて、組織を鼓舞する、あるいは巻き込むことで適応力を養うことができる。そしてこれが、変化に対してより高い柔軟性と対応能力を備えた意思決定の指針となるのである。
  • 重要なこととして理解しておきたいのが、個人・チーム・組織環境に関する意思決定は、仕組みとして相互に関連しており、組織の原動力となるということである。

従来のリーダーシップアプローチの限界は、コロナ禍以前から露見しつつあった。 組織が分散化され、ビジネスサイクルや戦略実行のスピードが加速する中、リーダーの多くは自組織の対応スピードや施策が生み出す成果に疑問を抱くようになっていた。一方で、職位を問わず従業員は皆、激務に疲弊し、心身のバランスを崩し、これまでになくエンゲージメントが低下して仕事に魅力を感じなくなってきていたのだ。

コロナ禍という、人命とその生活を脅かす危機は、リーダーたちにとっては更なる試練であり、従業員たちにとっては働き方・そのあり方を根本から覆すものとなった。誰もが予想だにしなかった、マニュアルのない未曽有の嵐ともいうべきコロナ禍を機に、リーダー、組織、チームが、全く新たな働き方へと移行し、これまでにない個人の特性・組織の要素を活用するようになったのである。

「ニューノーマル」の到来により、先行きの不透明感や物事の変化のスピードだけでなく、より幅広いステークホルダーへの責務の増大と関係の複雑化が確実視されている。今後は、個人と組織がともにビジネス環境の変化をより機敏に察知し、素早く対応できるようなリーダーシップモデルを備えた組織が、最も優れていると言われるようになるであろう。

優れた組織構築の手段という意味では、これまでの安定的・予測可能な環境においては機能していた、個人の突出した業績や、トップダウンでの指示に依拠した従来型のリーダーシップモデルは廃れていくであろう。今後、リーダーたちは自ら直接的な権限行使を控えるようになり、従来の職階を通じて戦略・情報・目標をカスケードダウンして指示することができなくなる。優秀なリーダーはむしろ、組織内の個人が変化に迅速に対応できる環境整備に注力するようになるであろう。つまり、強固な関係性、共感力、信頼関係、組織文化、円滑な協働関係、情報共有といった、人的要素に根差したリーダーシップへ移行していくようになるのである。

企業のCEOおよびトップリーダーは、組織の状況(事業に影響を与える外部・内部要因)とその成果(成長、収益性、イノベーション、顧客ロイヤルティ、持続可能性)を結びつける架け橋ともいうべき存在である。しかし、今日のような複雑かつペースの速い環境下では、有能なエグゼクティブは全てを自ら解決しようとはしないものである。一旦方向性を示すと、戦略、団結したリーダーシップチーム、組織構造、文化、従業員エンゲージメントといった要素を合わせて駆使し、その影響力を増大させることで成果実現に向けた環境を整備するのである。

この成功の要件ともいうべきものが、明瞭性であり、連携、活気、そして一貫性である。

  • 明瞭性:ミッションおよび最終目標が、パーパス、ビジョン、戦略および目指す組織文化を通じて明示されている
  • 連携:パフォーマンスの最大化のため、組織の最も重要な資源の有効活用、組織化、戦略的配置を行う
  • 活気:組織全体の意欲・目的意識が高く、一丸となって一層努力することで卓越した成果を挙げる
  • 一貫性:常に状況を把握し、変化が激しくペースの速い環境におけるビジネスニーズと諸条件の整合性を担保する

これらの要件を満たすと、組織は調和のとれたシステムのように動き出す。つまり、リーダーが戦略を策定し、メンバー個人に明示した上で戦略に基づいて人材・資源を配置し、組織全体を巻き込んで活性化を図ることで、すべてのパーツが一体となって動くようになるのだ。こうした組織では、個人やチームおよび事業部門は、自分たちが何をすべきか、どう相互に連携すべきかも理解している。こうした組織の効果的な運営に必要なことは、この一貫性の維持であり、リーダーとメンバー個人が、内部・外部環境の変化を敏感に感じ取ってこれに適応することである。変化する情報に基づいて適応し続けるために重要なのが、組織が目指す成果についてのさまざまなフィードバックを継続的に取り入れることである。

ビジネスの状況がより安定的で予測可能であれば、戦略、チーム構成、組織構造といった、従来通りの目に見えるリーダーシップ手法により、組織の優れたパフォーマンスを維持することができるであろう。しかし、こうした形式的で厳格なリーダーシップ手法では、組織の硬直化を引き起こす恐れがある。変化のスピードが増し、課題の出現予測が困難になるにつれ、組織はより高い柔軟性と順応性を備えていなければならない。ある取締役は、「今後、企業が差別化を図り、他社に対する優位性を確保するために必要な要素の1つが俊敏性(アジリティ)であろう」「俊敏性はリーダーシップにおける差別化にもつながる資質である。すなわち、変化を予測し適応する能力であり、即座に正しく優先事項を定め、時にその順序を再調整する能力である」と述べている。

より柔軟で適応性の高いリーダーシップモデルへの移行に伴い、リーダーたちは、組織文化、信頼関係、組織への関与といった目に見えにくいリーダーシップの要素のほか、共感や謙虚さといった個人の特性をますます活用するようになるであろう。目に見えにくい直感、本能、感情、価値観などは、当然ながら柔軟性が高く、成果実現の強力な原動力になり得るものの、同時に、目に見えず管理しにくいといった側面も持ち合わせている。

このコロナ禍においてリーダーたちは、こうした見えない特性およびリーダーシップの手法を自然と多く取り入れるようになった。この混沌とした状況下で、オンラインでのコミュニケーションに頼らざるを得なかったことを考慮したとしても、共感と謙虚さがあれば、危機的な状況においても人々とのつながりが深まり、組織の団結を維持できるということに多くのリーダーが気づいたのである。トップリーダーたちは、自由で積極的な情報共有や、同僚とのより強固な信頼関係の構築により、行動のスピードが増すということに気づき、コロナ禍における課題に組織として即断・即応すべく、いわゆるアジャイル型のプロセスを採用したのだ。つまりそれは、部門を越えた協働体制の強化や、顧客に直接対応するチームのエンパワーメントの向上、意思決定の分権化、分散した従業員の足並みを揃えるためのパーパスと価値観の共有である。あるCEOは「私たちがこれまで学んだことの多くが、無駄になることはないのは間違いない。というのも、働く場所・働き方次第で、生産性、迅速性、柔軟性を高めることができることが分かったからだ」と語っている。

Individual

 

様々な環境が予測可能であり、職責における短期的な目標が明確な場合には、リーダーの職務経験やこれまでに習得した能力から、彼らの今後の仕事ぶりを予測することが可能である。具体的な職歴、業界の知見、体得した専門知識・スキルといった、より定量化しやすい「表層の」資質を見れば、リーダーがどのように成果を実現するのかは明白であり、こうした資質が職責における期待値に直結しているからである。

リーダーは、市場の変化が激しく予測不可能な環境下においては、自らコントロールし指示したいという衝動を捨て、成果実現のための環境整備に集中せねばならない。リーダーが組織内の何千人ものメンバー個人との信頼感を醸成しながら指示することは叶わなくとも、対話とコミュニケーションの中で、その謙虚さ、共感、誠実さを示すことで信頼関係を築くことは可能である。こうした理由から、一般的な行動パターンともいうべき、性質・スタイルの嗜好といった、深層に潜む個人の能力・性質を深く探ることが一層重要である。

リーダーの社会的知性、自己認識、不透明な状況下での対応能力、問題解決能力などを含めた潜在能力を見れば、そのリーダーがどこまで迅速に物事に適応し成長できる人物であるかを予測することができる。リーダーたちの特性というのは、その深層に潜む嗜好・動機・回復力・スタイルが表出したものであり、リーダーそれぞれの行動、チームとの協働、組織文化との調和、育成ニーズへの対応方法などはこの特性により異なる。

コロナ禍を機に、リーダーシップの特性として、その深層に潜む謙虚さ・共感・回復力・適応力・誠実さ・透明性の重要性が注目されるようになった。こうした特性を備えたリーダーは、危機的状況下での課題解決に際してもチーム・組織全体を巻き込むと同時に支援することができている。また、自身がすべての答えを持っているわけではないことを認める謙虚さだけでなく、家族・友人を亡くした人々への共感、家族を看病している人々や、配偶者が仕事を失った人々のほか、仕事と家庭の両立に追われている人々への温かい配慮がある。あるCEOは「共感や支援、周囲への配慮ができる優れたリーダーは、より良い実績を挙げ、必要な変革に際して他のリーダーたちよりも多くの支持を受けている」と述べている。コロナ禍以前にも増して、対人能力、共感、信頼性といった、いわゆるソフトスキルの重要性が認識されるようになってきたのである。

Teams

 

コロナ禍以前には、自身のチームを、優れたパフォーマンスで実績を挙げているチームというよりもむしろ、有能な人材の集団、と表現していたリーダーも多かったことだろう。これまでリーダーたちは、チーム構成(有能な個人プレーヤーの集団)とその構造(明確な役割分担)といった、目に見える表層部分の要素にしか注意を払ってこなかったのである。

ビジネスを取り巻く環境が安定しており、各事業・機能部門の運営が比較的独立していた時代には、こうしたチームの要素に注意を払っていればそれで十分であった。しかし今や、経営陣は、より柔軟性を持って相互に助け合いながら変化に適応し続けなければならない。彼らは、もはや「自身の役割の範囲内」でものを考えているわけにはいかず、その場で必要とされることを周囲とともに実践しなければならない。適応力・回復力が非常に高いチームは、大方針における合意形成がなされており、問題の発生や状況の変化にも密接な連携で対処し、重要な目標に向かって前進できるものの、そこで必要となるのが、強固な関係構築、信頼であり、健全な組織力学である。

あるCEOは「ビジネスにおける人間的な要素の重要性は、まだ十分に理解されていないように感じる」「もちろん、適切な戦略は必要だが、しかるべきチームや組織文化といった人間的な要素も必要だ。それにはまず、リーダーに本当の意味での共感力がなくてはならず、それが信頼感の醸成へとつながるのだ。チームの前では、自分の弱さをさらけ出せるくらいでなくてはならない。チームと本物の関係構築ができていれば、それはおのずと自社の業績にも反映されるのだ」と語っている。

コロナ禍を機にこうした深層に潜む要素の重要性を認識した経営陣は少なくない。その多くが、従業員の福利厚生、資金管理とコスト、サプライチェーンおよび戦略的・運営的な課題といった、マニュアルのないさまざまな重要事項に迅速に対応せねばならず、その運営方針を転換すべく、ミーティングの頻度を増やし、自由な情報共有を促しながら新たな協働の方向性を模索し始めている。こうして以前にも増して緊密で積極的なコミュニケーションにより連携が進んだことで、信頼関係が生まれたのである。また、決定事項の共有頻度や協議の時間が増えたことで、意思決定の妨げとなっていたプロセスや官僚主義のいくつかが排除された。あるCEOは「率直さが非常に重要であった」「この件は自分で秘密裏にやっておこうなどと言っている暇はない。問題を迅速に議論のテーブルに乗せ、一丸となって解決することが非常に重要であった」と述べている。

経営陣がコロナ禍のピーク時のような頻度で会議を実施することはないかもしれないが、リーダーの多くが、以前のように統制されたプレゼンテーションを行う月次会議や、より階層的・中央集権的なリーダーシップ手法には戻らないと述べている。あるCEOは「チームというものは、すべてにおいてCEOを通さずとも機能する体制になっていなければならない。考え方やビジョンにおける方向性をチーム内で共有していれば、たとえメンバー個人それぞれのやり方があったとしても一体感をもって機能することはできる」と語っている。こうしたアプローチによって経営陣に一種の集団的知性が生まれ、急速な変化や膨大な情報への対応能力が高まるのである。

Org

 

リーダーはこれまで従業員に、ビジネスの優先事項のほか、実行に際しての役目を理解してもらうべく、戦略、組織構造・階層や、トップダウンでのコミュニケーションを重視してきた。しかし、先行きの不透明感が増し、絶えず状況が変化し続ける中、こうした柔軟性に乏しいアプローチでは、組織の対応能力の向上は望めない。リーダーは、パーパス、価値観、組織文化を通じて従業員の意欲を高め、彼らの関与の度合いを深めながら組織の適応能力の向上を図ることができる。そして、この組織適応能力さえあれば、自ら関与して権限を行使せずとも成果実現が可能となるのである。

パーパスとは、組織の「意義」を語るものであり、個人が行動する理由ともなる。価値観とは、どのように業務を進めるか、つまり、どのような行動が正しく、また、間違っているかを示す指針であり、組織文化とは、個人がいかに相互協力を実現するかを示す指針である。健全な文化が浸透している組織では、個人の想像力と意欲が増し、その潜在能力が開花する。つまり、彼らは自分でも気づかないうちに協力的になったり、創造性豊かでオープンになったり、より慎重に計画性をもって行動するようになる。パーパス、価値観、組織文化が一体化することで、皆が何に・なぜ時間を費やさねばならないのか理解できるようになり、より高い柔軟性と変化への対応能力を備えた意思決定の指針となるのである。

これに対し、厳格な組織階層と事業・機能の縦割り構造は、組織の硬直化と柔軟性の低下を招く。こうした組織では、自身の立場を序列の中でしか認識できないため、「自分には権限がないので分からない」という考え方につながり、個人の主体性や問題解決能力が損なわれてしまう。実際、ある企業では、組織構造をあえて社内に開示しないことで硬直化した上下関係をなくし、個人の職位に関わらず柔軟性と責任感をもって効率的に顧客にサービスを提供している。

リーダーたちは、コロナ禍という難局への対処の際、組織の一体感と集中力を維持し、真に重要な目標を共有するという意味において、パーパスと価値観が持つ威力を目の当たりにした。米国の大手小売企業のCEOは「従業員は、自分たちが使命感を持ってお客様の健康維持をお手伝いすることで、社会に貢献していることを実感した。コロナ禍において我々が掲げたパーパスが、従業員の能力を最大限に引き出してくれたのだ」と語っている。多くのリーダーは、定期的なオンラインのタウンホールミーティングを実施し、従業員の懸念や会社の対応への厳しい質問にも耳を傾けることで、共通の使命感と一体感の醸成を図った。

組織も今や、これまで考えられなかったようなスピードで物事に対応・適応できるようになった。より頻繁で柔軟なコミュニケーションといった新たな働き方を取り入れ、常態化していた縦割り・官僚主義的なプロセスを打破している。企業のコロナ禍における対応策を拡充するために、機敏に動ける多機能なワーキンググループや、スプリントによる短期間での製品開発、適切なスキルセットを備えたチームを結集した新しいプラットフォームが重要な役割を果たしている。

System

 

最後に重要なこととして理解しておきたいのが、個人・チーム・組織環境に関する意思決定は、仕組みとして相互に関連しており、組織の原動力となるということである。優れた業績を挙げている組織では、このリーダーシップ手法のシステム自体が、組織内で統合されたパーパスとつながっており、各要素が目標実現を念頭に相互に補強し支え合っている。こうした組織は、状況が変化する中でも個人が良好な関係で協働し続けることができるのだ。

リーダーが古い組織階層にあったような権限を行使して組織を直接コントロールすることができない場合には、目に見えにくいリーダーシップの要素に焦点を当てることで、成果を挙げるための環境整備を行うことができる。すなわち、個人の能力・個性をより深く見極めた上で、リーダーを選抜・育成し活躍させ、チームを単なる担当領域を持った有能な人材の集団とせず、連携や強固な信頼関係、健全な組織力学といったものに重点を置くのである。これにより、より緻密に組織文化やエンゲージメントの測定・管理ができるようになり、組織が活性化されるのだ。

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リーダーが今後の事業戦略・組織構造について重要な決定を下す際には、自身のリーダーシップモデルがきちんと業績を後押ししているかどうかも考慮せねばならない。今回のコロナ禍により、リーダーシップの重要性がこれまで以上に明白になっている。組織文化、エンゲージメント、個人の性質、そしてトップチームの協働体制が優れている企業は、この危機に最も優れた対応をしている存在として際立っている。これらのリーダーシップの要素は、従来リーダーが頼りにしてきた要素よりも目に見えにくく、活性化・管理が難しい傾向がある。組織が今後発展していくためには、リーダーがこうした目に見えにくい要素を管理することが、ますます重要になるであろう。