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複雑な世界に求められるリーダーシップ:未来のCEO承継計画とは

2024年4月

ある大手グローバル企業はこの3年間、CEOが様々な要求にさらされて疲弊し真剣に引退を考える中、リーダーシップ・戦略上の重要課題に直面していた。

この企業は、その高品質な製品と顧客サービスが高く評価され、これまで圧倒的な市場シェアを誇ってきた。その一方で、テクノロジーの進歩・新規参入企業・革新的な競合他社に遅れを取るまいと悪戦苦闘していたものの、リスク回避的・合議主義的な企業文化が、変革推進の一つの足枷となっていた。また、他社と同様に、2020年代に起きた様々な問題、例えばマクロ経済の不透明感、地政学的混乱、サプライチェーンの崩壊、人材獲得競争、仕事への意識の変化、社会変動の広がり、より多様な企業経営を求めるESGの圧力などにも対応していた。離職率は高く、ある経営幹部も退職したばかりで、株価は市場平均を下回り、株主アクティビズムの可能性も噂されていた。

現CEOはこうした変化にうまく対応できるのか(そもそも対応する意欲はあるのか)、不可能であれば、誰がその役割を担えるのか、取締役会にとっては先が見えない状況だった。

社内外の環境が大きく変化する中、将来に亘り企業を成功に導くCEO像とは一体どのようなものなのだろうか。

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CEOの職務がより複雑かつ困難になる中、世界中の取締役会がCEO承継計画と次世代のリーダーシップを考慮しながらも同様に悪戦苦闘し、CEO自身はこうした時代に「パフォーマンスを発揮する」とはどういうことなのか理解しようとしている。優秀なエグゼクティブにはかつて魅力的に映っていたCEOの職務だが、今や特に上場企業では大きな負担を強いられるのではないかと考える者も多い。スペンサースチュアートは、世界中の取締役会・経営幹部のアドバイザーとして、会議室や執務室でこうした疑問が呈される様子を目の当たりにし、答えを導き出すために必要なことを学んできた。

そして明らかになったことは、詰まるところ「プレイブック」の変化である。これまでのCEOの時代にうまく行っていたことは、もはや通用しない。CEOを取り巻く環境は本質的に複雑になり、これまでのリーダーシップの手法は通用しないのだ。こうして今やCEOの職務の果たし方・成功するCEO像にも変化が見え始めている。

危機が増加しているのではない。危機そのものの規模・広がり・スピード・連鎖の仕方が変化しているのだ。

どのようなCEO像にも、価値のあるキャリア経験やリーダーシップ能力など、企業特有の事情が反映されるのは今後も変わらない。しかしこれからは、優れたCEOは「深層の」2つの本質において差別化されていく。1つ目は、これまでの実績に対してのポテンシャルを示す「潜在能力(Capacity)」であり、2つ目は過去に経験のない状況への対応能力を示す「性質(Character)」である。このようなCEOは、状況を鑑みて変化の影響の度合いを認識する謙虚さがあり、ビジネスに影響を及ぼす社内外の動きを統合的に理解する能力を備えている。また、影響を考慮して行動する機敏さと勇気、多様なステークホルダーとつながる共感力、情報と人材のエコシステムを開発・活用する能力も持ち合わせている。CEOリーダーシップの変化する性質に関するこのような所見は、世界共通といってよいだろう。

「前例のない時代である」 私たちは、過去数年間、このような言葉を幾度となく耳にしてきた。2020年代以降、新型コロナウイルスの感染拡大、世界的な社会正義運動、環境危機、マクロ経済の不透明性により引き起こされた難局を、絶え間なく経験してきた。

全体的に危機が増加しているのではない。経済危機、地政学的危機、社会危機、そして流行病的危機などはこれまでも10年おきに発生していた。過去との違いは、危機そのものの規模・広がり・スピード・連鎖の仕方だ。テクノロジーによってビジネスの国境が消え去り、変化のペースが加速した結果、政治的分断のようなマクロ要因の増加や、ステークホルダーへの期待値の変化の影響が蓄積し、機会・課題への企業の対応が複雑化した。ニュースでも次のようにさまざま取り上げられてる。

  • 善意のマーケティングキャンペーンがソーシャルメディアで拡散され、炎上。その後の企業対応がさらに反発を招いている。
  • 地政学的緊張と労働力不足に余儀なくされたサプライチェーンの大幅再編の結果、想定外の需要急増に対して対応できず。
  • 一企業の倒産に全世界の市場が反応。ドミノ効果によりセクター内外の企業に倒産の危機。

二極化が進み政府などの機関の信頼と実効性が低下する中、政治・環境・社会問題といった幅広いテーマにおける企業のリーダーシップが求められている。顧客は、自分たちと同じ価値観に基づいて重要課題に取り組むブランドからの商品・サービス購入を望み、従業員は、自分の目的意識に合った企業で働きたいと考えている。

リーダーにとってさらに難しいのは、「常にオン」である情報環境を監視・把握せねばならないという絶え間ないプレッシャーだ。ソーシャルメディアに後押しされて力を得たステークホルダーが企業に対する要求を強める中、リーダーは対応の有無・方法を即座に判断せねばならない。ほとんどのことがビジネスに関連する状況で、CEOはそれらに細心の注意を払い、自社への影響の有無を見極める必要がある。

状況の変化

企業やリーダーにとってのリスクを高める要因は多岐に亘る。

 

24時間365日、超ネットワーク化された世界

「常にオン」である情報環境の中、リーダーにとってはビジネスにおける重要事項の特定、対応の有無・方法の判断の難易度は高まるが、これはAIの台頭により加速の一途をたどる。

社会における企業の役割の増大

今や企業には、気候変動、社会的正義、ステークホルダーに対する長期的な価値創出といった共通課題に代表される、政治・環境・社会的問題におけるリーダーシップが求められている。

ステークホルダーの主張・要求の広がり

ソーシャルメディアに後押しされ力を得た顧客・従業員・投資家などの主張・要求は以前より強まり、物議を醸すような話題では即座に結集する。

マクロ要因による混乱とリスクの増加

地政学的緊張、経済の不透明性、サプライチェーンの崩壊、脱グローバライゼーションとニアショアリングのほか、AIをはじめとするテクノロジーの急速な進歩によりビジネス自体が根本的に変化し、混乱や機会はどこからでも生じ得る。

世代により異なる仕事への意識

従業員が企業に望むことは、給与のみならず、価値感の共有とキャリア上の目標達成も含む。

 

ある要因がもたらす影響は企業によって異なるが、状況の変化はあらゆる業界・規模のビジネスに影響をもたらす。将来に向けた計画立案に際して、取締役会やCEOはこうした要因が戦略・文化・運営・リーダーシップなど企業の現在・未来に及ぼす影響を考慮せねばならない。


状況の変化がビジネスに及ぼす影響を深く掘り下げるために、取締役会や経営幹部は次のような問いについて検討してほしい。

こうした変化・傾向のうち、自社に甚大な影響を及ぼすものは何か。

それが自社の使命・戦略・文化・CEOにとって、何を意味するのか。


こうした状況の変化は、CEOの職務が以前とは根本的に異なることを意味するのか。答えはイエスでもありノーでもある。結局のところCEOは現在でも、株主価値を創出し企業を成功へと導かねばならない存在であり、過去10年の当社アセスメントデータベースが示す通り、CEOの最も優れた特性が、成果実現力であることに変わりはない。変わったことといえば「成功」の定義そのものであり、組織の成果実現の方法だ。

CEOの職務は今後ますます過酷になる。そこでCEOが正すべきことが次の5つだ。

  • 財務目標と企業の長期的なパーパスを反映した新たな方法で成功を定義する。確かに財務パフォーマンスが必達であることには変わらないが、今はそれだけではない。未来のCEOには、企業の目的、すなわち株主に利益を与える以上の存在理由を中心に組織を定義し活性化を図ることが重要だ。パーパス志向は、今や医療や教育、非営利分野に留まらない。状況が絶えず変化する中、企業には従業員が正しい方向に進み、戦略に忠実であり続けるよう導く北極星のような目印が必要だ。明確な目標設定により従業員の士気や顧客・投資家のロイヤリティを高め、長期的に持続可能な財務収益の土台を築くのである。
  • より幅広いステークホルダーに関与し、巻き込む。フォロワーシップを高めることは決して容易ではない。ステークホルダー資本主義の台頭およびサステナビリティ重視の傾向は、未来のCEOがこれまで以上に幅広い関係者に対して誠実に関与せねばならないことを意味している。従業員・顧客・取引業者・投資家・規制機関・メディア・コミュニティメンバー・一般市民は常に目を光らせており、テクノロジーの絶え間ない進歩によりこの傾向は一層強まるばかりである。未来のCEOは、幅広いステークホルダーの声に耳を傾け、信頼を高めるよう関わる方法を模索せねばならない。ただし、すべての要求に応えようとして、反発を生んだり組織に損害を与えるほど懸命になる必要はない。
  • CEOがすべてを理解しているわけではない – 多様な人材・リソースのエコシステムの構築・活用の重要性。不確実性を増す世界で企業を牽引する未来のCEOは、すべてを理解することも判断することもできない。CEOは豊富で多様な意見を活用しながら新たな展開を予測して変化に対応し、未来を見据えることができる。社外においては、企業の現在のエコシステムをはるかに超えた幅広く多様なネットワークの積極的な構築が必要だ。これにより、洞察・着想・人脈を得て、イノベーションと成長によりビジネスが飛躍を遂げるのだ。社内では、周囲を信頼できるチームで固めリーダーシップの強化を図ることが成功の下支えとなり、スキルと知識不足を解消することができる。取締役会は特に、リスク・機会の評価、問題の予測・解決、持続可能な企業経営の実現に向けた明確な戦略の打ち出しなどでCEOと協働しており、CEOのエコシステムの中でも特に重要な役割を担う。
  • 指示型ではなく、俊敏な支援型リーダーシップによる成果実現。 これまでのCEOは、指示・命令、いわゆるトップダウンでリードする傾向があった。しかし、これでは自分が孤立してしまい自社のエコシステムを十分に育成・活用できない。指示型のリーダーシップスタイルでは自由な意見交換がなされず、意思決定・組織の俊敏性・従業員の巻き込みのほか、最終的には業績にマイナスの影響をもたらすことになる。未来のCEOは、役割権限は利用するものの、より一層部下を支援し、同時に意見を求め、指示・命令的であることは稀である。包摂的行動の模範を示しているのだ。ただし、当社の調査結果にもある通り、「指示型」スタイルを抑制することは容易ではなく、「トップダウン」と「ボトムアップ」のリーダーシップを巧みに組み合わせることができるようになるには、何年もの自己研鑽・試みが必要とされる。
  • 時代の流れにアンテナを張り巡らせる。必要に応じて変化を起こす。未来のCEOは、テクノロジーの絶え間ない進歩(特にAIの加速度的な進歩)や、破壊的競合の台頭、顧客の期待値の変化など、社内外の急速な状況変化に合わせて戦略・計画を適宜変更しなければならない。複数の異なるシナリオに基づいて計画を立案し、新たな情報に合わせて微調整するのだ。また、自らの計画を貫き、条件反射的な行動や他社の模倣を避ける判断をする必要もある。さらに、自分自身・チーム・組織の活気を保つために、継続的に改革を行うことの必要性も認識している。当社が実施したCEOのライフサイクルに関する調査では、特に業績の良い企業にとって、現状に満足してしまうことは長期的にみて大きなリスクとされている。未来のCEOは、常に現状を問い変化をもたらすことの必要性を認識している。
テクノロジーの日進月歩(特にAIの進化の加速)、破壊的な競合他社の台頭、顧客の期待値の変化など、未来のCEOには社内外の急速な環境変化に応じた戦略・計画変更が求められる。

取締役会は、次世代のリーダー育成計画の立案に際して、次の点を考慮しながら、環境変化によるCEOの責務の進化を評価する必要がある。

現職のCEOは、このような責務の変化にどう対応しているか。現職のCEOの強みが発揮されている分野は、一方でさらなる成長が期待される分野は何か。

CEOエコシステムの強度は。エコシステムの知見をどの程度活用できているか。

次世代のリーダー、特にCEO候補者の就任準備はどの程度整っているか。


「パーパス」の重要性

当社が実施したCEOのリーダーシップスタイルの過去数年間の傾向分析では、従来のトップダウン型から、ミッション・人材・学習志向型への移行が見受けられる。近年、「パーパス」志向のリーダーシップスタイルのCEOが増え、あるべき姿の共有や大義への貢献が重視されている。一方、自信・支配を重視する「権威」志向のCEOは減少している。

未来のCEOはその職務への要求の高まりを考え、「大胆にリスクを取る・慎重になるべき時」「前進する・立ち止まるべき時」「相談する・指示すべき時」「声を上げる・沈黙を守るべき時」「チームの現状を維持する・変化を起こすべき時」など、常にバランスを取りながら行動している。

未来のCEOがこうしてバランスの取れた采配を振るうために必要なスキルや経験とは何か。戦略的思考、成果実現力、次世代人材の育成など、CEOに必要とされていた多くの特性の重要性は不変である。私たちは、CEOが直面する課題を考慮して特に重要な5つの特性を特定したが、これらはいずれもリーダーの過去の実績ではなく、今後の可能性を指している。これらはリーダーシップDNAの重要な構成要素であり、これからのCEOが、未来を確実に形作るような、大きな困難の絶え間ない流れに立ち向かい、枠組みを整備・運用し解決する力となるのだ。

  • システム思考 — 包括的かつ賢く勇気ある戦略立案。システム思考を備えたリーダーは、物事のつながりを認識・理解し、従来の常識にとらわれない大胆な発想をする。そして、「知的好奇心や学びたい・理解したいという渇望」「批判的思考力と課題解決能力」「概念的思考と膨大な情報を総合して大局的な洞察を得る能力」「複数の角度・時間軸・シナリオを必要に応じてマクロ/ミクロの視点から戦略的に切り替える能力」などを兼ね備えている。戦略は今や、「スマートにリスクを取る/変革を推進する/懐疑的な視点から現状維持を選択する勇気」「他者が突き進んでいる時にゆっくり進む慎重さ」「厳しい判断の指針となる揺るぎない価値感と倫理感」など、人格の構成要素と結びついている。システム思考でないリーダーは、視野が狭く、点と点をつなげて企業にとっての重要事項を特定することができない。勇気が欠けているリーダーは、迅速な判断ができず、小さな賭けしかできなかったり、決定を覆すことがある。この両方が不足しているリーダーは、機会を逃したり、不適切な事業戦略を採用する傾向がある。
  • 内省と適応能力。未来のCEOには知識欲があり、俊敏性と柔軟性を備えている。「すべての答えを持っている」「自分が一番賢い」ように見せる必要はなく、情報を取り込み、そこから学んで適応する。CEOのアプローチは、「確固たる意見があるが、柔軟でもある」というもので、他者の手本となるべく、隠さずに内省し、意見を求め、他者の考え方を取り入れ、必要に応じて他者のやり方に合わせている。また、建設的な対話だけでなく、悪いニュースであっても報告を促す。反対の対応を期待するような場の空気があったとしても、自身の姿勢を崩さない。さらに、チームや広範な組織の知見を活用できるよう、固定化した階層構造を意図的に崩す。自分の知見や考えを過信し、他者を信用しないリーダーは、凝り固まった世界観で問題に対処しようとする。そして状況に応じて学び適応するのではなく、過去のプレイブックに答えを求める傾向がある。不慣れな分野では、こうしたアプローチは危険だ。
  • 自信と責任感に、共感・包摂性・社会的知性を融合したリーダーシップ。未来のCEOは自信を持って自社を牽引し、結果に対する説明責任を有する。同時に、支援的なスタイルで牽引するのに必要な共感・思いやり・謙遜さ・脆弱性などの資質を備えている。利己心や自我により、フォロワーシップを失うことはない。未来のCEOは、「ハード」「ソフト」スタイルを融合し、部下を上手く関与・団結させる。これがビジネスの成功の鍵である。このような現代型のリーダーシップは、確固とした対人・対社会認識を備えており、異なる視点をその場で取り入れ、周囲との最適な関り方を判断する能力が高い。このような強みは、自己認識だけでなく、客観的にも表出する。自分が内向的・外交的であれ、また相手が誰であっても、リーダーは相手への共感を忘れない。周りには、業績を伸ばすだけでなく他者への思いやりがあるリーダーとして受け止められる。また、人との純粋な繋がりと能力により、メンバーのフォロワーシップを引き出す。バランスの取れたリーダーシップアプローチは重要だ。「ハード」なリーダーシップに偏ると、成果は実現できるかもしれないが、メンバーが「自分たちには権限が与えられていない」「関与させてもらえない」と感じれば、組織として持続しない。一方で、過度に「ソフト」なリーダーシップは、優柔不断・責任感の欠如・人材関連での不適切な意思決定につながりかねず、成果実現やチームの質にマイナスの影響を及ぼす。
  • 頭と心を使ったコミュニケーション — 現実味を重視する。未来のCEOはコミュニケーション能力が高い。CEOは、距離や、グループ規模、オンライン・対面といった形式や原稿の有無に関わらず、また場所が役員会議であろうと工場であろうと、周囲を鼓舞するのだ。相手に合わせたオープンかつ率直で親しみやすいスタイルで話し・書き・その姿を見せることで、相手はCEOが実在し自分の声に耳を傾けてくれていると感じる。未来のCEOが文化に敏感なのは万国共通で、論議を呼ぶ話題に言及すべきか否か、またそのタイミングも心得ている。この点に優れたリーダーは、現実的かつ楽観的に自社のビジョンとパーパスを明示しメンバーの士気を上げている。従来のCEOのコミュニケーションは心よりも頭で考えるスタイルだったが、未来のCEOのコミュニケーションには、頭で考えながらも心の要素がある。「組織を上手く巻き込めない」「メンバーの心をつかめない」「自信を植え付けられない」リーダーは、フォロワーシップだけでなくステークホルダーの支持を失う危険性がある。最悪の場合、CEOの不適切なコミュニケーションが企業のブランドや評判を損ねる可能性もある。
  • レジリエンス。未来のCEOは、職務遂行に際してのストレスおよび集中力に必要な精神・感情・身体面での準備ができている。精神・感情・身体面で優れた状態を維持することが、職務で最善を尽くすために必須であることを理解しているのだ。自分の感情を制御することで、動じることなく高い意欲を維持できれば、いかなる難局に直面しても最善を尽くすことができる。自分の強みと成長機会を知ることで、必要なサポートを周囲から確実に得ることができる。未来のCEOはその活力を管理し健康を優先しながら、職務と自分のパーパスを結び付けてレジリエンスを維持する。また、厳格な時間管理でCEOができることだけを行い、内省と充電の機会を作る。職務への要求・ストレスを管理しきれないと、極度の疲労に陥り、意思決定能力の低下を招き、在任期間の短縮につながりかねない。ビジネスとその状況が複雑である程、高いレジリエンスが必要とされるのである。

エグゼクティブ・インテリジェンス:新しいCEOの根底を成すもの

システム思考、内省と適応能力、対人能力に優れたリーダーの根底にある重要な適性は、当社のエグゼクティブ・インテリジェンス®評価により測定が可能で、主要な3つの側面からエグゼクティブを評価する。

  • 批判的思考と概念的思考:分析的な課題解決スキルおよび大局的・長期的な考え方
  • 自己評価と修正:新たな、あるいは異なる情報・視点を取り入れ適応する柔軟性および意欲
  • 対人認識と対社会認識:小規模グループや複数のステークホルダーが絡む複雑な関係性への対応能力

実際には、こうした特性の全てにおいて優れたリーダーを探し出すことは容易ではない。結果的に本稿冒頭の例のようにCEOの選出・承継計画に苦心している取締役会は、CEOの成功にとっての最重要特性を見極めた上で、妥協点・不足な点をCEOのエコシステム内でどう補填するのか考慮すべきだ。こうした意思決定は、企業のビジネスに最重要とされるマクロ要因の判断のみならず、戦略的方向性とチーム・組織・ビジネス環境の要求・制約を考慮し、十分な情報を得たうえで行うべきである。

例えば、ある大手グローバル製造業で選出されたCEO後継者は、コミュニケーションは得意ではないものの、優れたシステム思考、勇気ある判断能力、適応力を備えている人物だった。同企業の大きな変革・混乱の時代に、説得力のある10か年成長戦略を立案・実行できる未来のCEOが必要とされていたからである。一方で、ミッション志向のサービス企業の取締役会では、CEO後継者選出に際し、突出したリーダーシップとコミュニケーション能力が優先された。当時、事業戦略の大幅な変更は見込まれておらず、従業員・顧客・ステークホルダーを巻き込み関係を構築することが最優先されたためである。


取締役会・CEO・CHROは、未来のリーダーの重要な特性を次の観点で考慮すべきである。

企業のCEOにとっての最重要な特性とは。状況に応じて妥協すべきものとは。

社内においてこうした特性が求められる他の重要な役割とは。

現職・未来のリーダーのこれらの資質を特定・評価・育成する自社の能力に確信が持てるか。


経験が果たす役割

それでも経験は重要か。答えは「イエス」だが、重要な経験の要素は進化している。

かつてない急速な変化を遂げる複雑な世界で想定外の困難に直面した際、過去のプレイブックは通用しない。あらゆる業界や機能での豊富な知見や、CEOとしての過去の経験でさえ、過去数十年間役立っていた程には今後は役に立たない。実際、CEO経験の利点と限界に関する当社の調査では、高い潜在能力を持つ初任CEOの方が、経験豊富なCEOよりも在任期間中に相対的に優れた業績を上げている。

今や、特定の業界や機能での経験年数よりも重要なのは、関連性のある幅広い経験の蓄積だ。大規模な事業の収益責任から、グローバル環境における複数セクターでのリーダー経験、企業財務・ガバナンスに至るまで、全てに通用するものはないが、リーダーシップの成功に役立つ可能性が高いのは、状況に関連した重要な経験の蓄積だ。未来のCEOが、知恵、パターン認識、直面する幅広い状況に対応できる俊敏性を習得するには、幅広く・深い経験が必要である。経験を積むことでリーダーに必要な筋肉が鍛えられ、生来の可能性を伸ばし、能力と知見に一層磨きがかかるのだ。

一方、テクノロジーは未来のCEOにとって知見が必須とされる分野だ。企業は今後もテクノロジーをより一層活用してビジネスモデルの再構築・市場拡大を目指し、顧客ニーズを把握しその興味・関心と購買機会を結びつけるため、データを活用せねばならない。また、これがなければ他に遅れを取ってしまう。特に、未来のCEOは、リスクと機会だけでなく、戦略・倫理・ビジネスモデル・労働力管理・競争圧力などへの影響を考慮し、AIの進化という現実を十分把握していなければならない。CEOは技術畑出身でなくてもよいが、テクノロジーとビジネスへの応用を評価できる能力のほか、直接の競合や業界のステークホルダーだけでなく、イノベーターやディスラプターとの関係構築も必須である。

ビジネス環境が非常に複雑に変化する中、CEOの職務は今後も過酷さを増していく。ビジネスとリーダーシップの性質が変化を遂げ、CEOなどのトップリーダーの発掘・育成には、経験・能力よりも可能性・人格を重視する新たなプレイブックが必要である。

CEOに対する要求は高まっているものの、CEOはスーパーマンでもスーパーヒーローでもない。万能な人間を目指すと自分が混乱するだけでなく、組織に不平・不満が生じ、ビジネスの進歩が遅れる可能性がある。

未来のCEOは、成功は1人では達成できないとの認識に立ち、エコシステム、すなわちチーム・取締役会・社外の専門家の知見を活用してリスクと機会を予測し、対応する必要がある。また、大量の情報を精査して優れた戦略を立案(および実行)しながら、継続的に学習・適応していかねばならない。CEOは、他者に寄り添いながら謙虚に賢く組織を牽引し、組織が変化にすばやく対応し継続的に成果実現できる状況を作り上げるのだ。そして、状況に応じた大胆なコミュニケーションスキルで幅広いステークホルダーを巻き込むだけでなく、そのライフサイクルの中で起こる浮き沈みを乗り越えるレジリエンスをも備えている。

取締役会・CHRO、そして今日のCEOは、このような資質を念頭に未来のCEOを育成しながら、優秀なトップ人材のエコシステム強化にも目を向けなければならない。今日のCEO・CHROは、あらゆる経営幹部の承継計画において、先を見越して長期的に投資すべきだ。リーダー候補者をキャリアの早期に見出し、奥深さ・幅広さのバランスが取れたキャリアパスを提示し、多様で強固な人材パイプラインを構築せねばならない。取締役会はこうした手法の方向性を定め、CEO承継計画や全般的な人材管理プロセスを早期に開始し、厳格な方針に沿って長期的に進めるべきだ。また、この先CEOを目指す人間は、CEOという名声と引き換えにそれまでで最も困難な職務に就こうとしているのだと心得ておかねばならない。それには、深く広くバランス良く、知見・視点を習得できるような経験を優先し、リーダーシップスキルにおいて研鑽を積み、人格とレジリエンスの強化に努めることが求められる。

調査手法

スペンサースチュアートは、未来のCEO育成への影響を含め、ビジネスへ影響を及ぼす動きとそれがCEOにとって何を意味するかを明らかにすべく、多数のCEO承継・リーダーシップスタイル・従業員エンゲージメントのデータのほか、CEO・取締役とのインタビューの定量・定性分析を活用した。また、過去5年間で1,000件を超えるCEO承継プロジェクトへの提言を行い、パフォーマンスの向上を目的に現職CEO・CEO候補者へ定期的なコーチングを実施している当社のシニアコンサルタント30名の知見・洞察を集約した。さらに、当社の組織・企業文化フレームワークに基づき、CEOリーダーシップスタイルの経時的変化に関するデータおよび、CEOのマクロ状況への適応に関する仮説を検証した。さらに、当社のグループ企業であるキンセントリックが収集した従業員エンゲージメントの傾向を分析し、従業員の期待値の長期的な変化を把握した。最後に、現職CEOと取締役を対象にした仮説の検証を行った。

リサーチ リード

Cathy Anterasian (オースティン)

Dan-Meng Chen (シアトル)

協力メンバー

George Anderson (ボストン)

Alice Au (香港/北京)*

Rowen Bainbridge (ロンドン)*

Jason Baumgarten (シアトル)*

Frank Birkel (ミュンヘン)

Marco Boni (ドバイ)

Catherine Bright (ロンドン)

Jordan Brugg (ニューヨーク)

Kerri Burgess (シドニー)*

Jim Citrin (スタンフォード)*

Ruth Curran (ダブリン)

Julie Daum (ニューヨーク)*

Elise DeBeer (ヨハネスブルグ)

Bob DeVries (マイアミ)

Giovanna Galli (ミラノ)*

 

* CEO&ボード プラクティスリーダー

Colin Graham (ニューヨーク)

Susan Hart (ニューヨーク)

Patrick Hynes (ロンドン)

Eric Leventhal (スタンフォード)

Connie McCann (フィラデルフィア)

Jerry Noonan (ボストン)

Luigi Paro (ミラノ/ローマ)

Miranda Pode (ロンドン)

Mpho Seboni (ヨハネスブルグ)

Jonathan Smith (ロンドン)

Bob Stark (サンフランシスコ)

Alexis Stiles (フィラデルフィア)

Kim Van Der Zon (ニューヨーク)

Malini Vaidya (シンガポール)

Bruce Williamson (メルボルン)*